AERA in FOLK あれは、ロックな春だった!(朝日新聞社 / 2006)

markbook2006-03-29

近頃日本のフォーク(と言う名で総称される60〜70年代のジャパニーズポップス)が元気だ。こんな感覚は今からちょうど10年余り前、Q盤なるキャンペーンでレコード会社各社が1500円の廉価CD復刻盤を出しまくっていた時代以来のこと。あの時ちょうど中学生だった私は、そこで初めて音楽の産湯に浸かったわけだ。始まりはディランなんかじゃなく、谷村新司であり拓郎・陽水であり泉谷しげるであった。後に出会った古井戸の加奈崎芳太郎には人生観まで変えさせられる衝撃があった。

さて、高田渡の死によってもうダメかも、というムードが蔓延したフォーク界では昨年末からのエレックレコードの奇跡的復活劇やら、不死身のエンケン映画の公開、今年に入ってからはURC(エイベックス)から関西フォークの歴史BOX(再復刻)、高田渡アンソロジーBOXなんかも立て続けに出てきたし、加藤和彦がミカバンドを動かしてきたり、さらに今秋にはかぐや姫と還暦吉田拓郎とのジョイントつま恋が再現しちゃうなんてお祭りムードもあってか、フォーク復活の年になりそうな気配。やっぱりフォークってムーブメントが動かしてきたところがあって、レコード会社各社も再発CDとかの仕掛け方がとても上手い。やっぱり30年の歳は経ていても、同じ時代を生きた人々の連帯は今にも生きていて羨ましい限り。後追いの私など悔しい気分にもなる。

さて、それでアエラがフォーク特集である。なんでまた、って気もしたが、思わず買ってみてよく出来てるんだなコレが。定価780円でこの密度はヤバイです。しかもこうした団塊の世代向けムック本にありがちな懐古趣味テイストが薄くて(もう一度手にしよう、みたいなアコギの広告がどうしても多くなってはいるが)、いいカンジで歳をとった還暦ミュージシャン達の佇まいがどうにも前向きでなかなか悪くない。しかも酒場でワイン片手に思い出を語るとかいうんじゃなくて、落ち着いてない感じがまたいいのである。やっぱり、誤解を恐れずにいうならば、「貧乏人の音楽はスバラシイ」のである。60〜70年代の若者を熱狂させた日本のフォークが、喰らいついていくような貪欲さを無くしたリッチな音楽ではなかったことが改めて感じられとても嬉しい。

見所はというと、「証言構成中津川フォークジャンボリー」や、アレンジャーで元モップスのギタリスト星勝やプロデューサー多賀英典が語る井上陽水サウンドの舞台裏、とかミカバンド『黒船』についての加藤和彦のインタビューとかも興味深いし、エンケン遠藤賢司)と浦沢直樹の対談なんてのもあった。吉祥寺フォークで言うと、当時の吉祥寺の様子がありありと思い浮かぶ「ぐぁらん堂」に寄せたシバの文章や、別れられぬ友、高田渡を偲ぶ中川五郎のラブレターのような文章も心に沁みた。坂崎幸之助がアコギ名盤を紹介するコーナーで長谷川きよしはコピーしようとしてもそのドライブ感が出せなかった、というのも興味深かった。というのも最近長谷川きよしのライブを目にして変わらぬ圧倒的なギターテクニックに舌を巻いたからだ。日本初のフリーランスエンジニア吉野金次へのインタビューなど裏方にスポットライトを当てた編集も◎。

最後に、今のところ気になっているのは加川良。フォークシンガーのライブは相当見に行ったが、まだ恥ずかしながら生で見ていないのは彼。是非近いうちに行こうと思う。新作『デビュー』も待ち遠しい。

我が良き友よ ( かまやつひろし KKベストセラーズ / 1975年 )

markbook2006-02-08

最近入手した面白い一冊。1975年に吉田拓郎が書き贈った”我が良き友よ”の特大ヒットに合わせて出版されたタレント本なのだが、ポッと出の新人ではなくこの時点で既に相当のキャリアを持っている彼だから、すごく密度が濃い。しかし6月5日に初版が出て15日には23版ってほんとにそんなに売れたんだろうか。

スパイダース解散後、陽水・拓郎・かぐや姫という三大スターを抱えて隆盛を迎えることになるフォーク界に接近していったムッシュ。1971年のフォークジャンボリーには既にシティライツをバックにカントリーを聴かせている。スパイダース結成前にはかまやつ(釜萢)ヒロシとしてウェスタンギターを抱えていただけあってフォークにも違和感無く溶け込めたようだ。

さて、陽水、エンケン、拓郎、高田渡三上寛、泉谷、加川良らフォーク勢や、スパイダースの盟友、ユーヤさん、ショーケンにジュリー、和田アキ子に音楽的親交のあったガロなどロック勢らとの軽妙に綴られるエピソードは、殆どの面々が現役なだけに内容が古びず本当に興味深い。ムッシュはセンスで勝負している人だとつくづく思う。人間観察も鋭い。時代の半歩先を行っている人に接近して友達になれちゃうのはまさに才能だと思うし、それでいて誰にも憎まれないのはなんとも得なキャラクターだ。

面白かったエッセイでは「お見合いはエッチだと思わないかい?」。喫茶店でお見合い現場にたまたま遭遇したムッシュが会話のやりとりをいちいちヒワイな方向へ深読みするという妄想エッセイなのだが、何も悟られないようにじっとしながら誰にもメイワクをかけずにひたすら考え事をしているムッシュに無条件に好感を持ってしまった。あと「やっぱり歌はへたより上手のほうがいい」では自分の歌がうまいと思ったことがないと言い切った上で、聴いてくれる人はなんとなくホノボノしてくれればいいなんてことを言っている。実に”客観的に見れて”いる人だなあと感心してしまう。(ワタシはムッシュの歌、好きですが。)

また、身近にいるおしゃれな人のファッションを愛情持って紹介するコーナーも。彼は昨年急逝した高田渡が好きなようで、本にもところどころ登場するのだが、彼のファッションをこう評している。

「目立たないけどおしゃれな人だ。ナメシ皮の上着に、ノリのついてないシャツを着て、太いコールテンのズボン、靴はスウェードモカシをはいて、パイプをくわえている−パリの裏街の絵描きさんのような服装がイカシてるんだ。」

いい感じです。

さらに最後にはグルメ論。行きつけの店でおいしかった店を料理別に紹介して電話番号まで載せてしまっている辺りなんとも凝っている。

2年ほど前だったか、中川イサトの名盤『お茶の時間』のジャケットにもなっている喫茶店ムッシュを目撃したことがある。あまりの衝撃に「ムッシュですよね?」と問いただしてしまったが、見間違えようもなく、ムッシュ以外の何者でもなかっただろう。

2002年の『Je m'appelle MONSEIUR〜我が名はムッシュ』とセルフカバーの『Classics』に合わせて出版された自伝『ムッシュ!』(日経BP社)も戦後ポピュラーミュージックの歩みをムッシュを通じて体感できる稀有な一冊。ここでも語り口が冴えている。

レコジャケ ジャンキー! (音楽出版社 /2006年)

markbook2006-02-03

いわゆるレコードの”パロジャケ”を集めたムックだが、実に手が込んでいる。何より、レコードコレクターの末期的症状とも言えるパロジャケ収集に込められた並々ならぬ執念が感じ取れるし、「ビートルズ本ではありません。」という帯の注意書きやノンブル(頁番号)がレコジャケの切り抜き(例えば”1”はThe Beatlesのベスト盤『1』になっていたりする)も気が利いている。

本の表紙でもこれでもかとパロっているサージェントが格好のサンプルだが、The Beatlesのあらゆるジャケットは秀逸なパロディを作らせている。有名であればあるほどパロディの質と悪意も高まるというものだろうか。過去の作品のコラージュが様々な芸術活動にみられるようになってきた(ポストモダン的、とも言えるのか)日本においては、90〜00年代にThe Beatlesをはじめとにかく沢山のパロジャケが作られている。一からモノづくりをするのが難しい国民性のなせる業か。

この本、音楽ファンなら誰でも知っている、というレベルのものから、全く気がつかなかった!というものまでをほぼ網羅。個人的に気がつかなかったのジョージの『All Things Must Pass』とVan Morrionの『Veedon Fleece』。そしてJesse Ed Davisの『Ululu』とLee Ritenourの『Rit』なんてのも確かに似た雰囲気でビックリ。笑ったのはバッファローの『Last Time Around』とあのタイガースの『廃虚の鳩』のシングル盤。よく見れば明らかに似ているのだが、GSとウェストコーストロックのカルトバンドがどうしても結びつかなかった。しかもコレ、しばらく経って評価が定まってからの流用ではなく、発表年がかなり近接している所がいい。パロディと言えば聞こえはいいが、「ほぼパクリなのでは?」と疑いたくもなる危うさがパロジャケの妙味か。Bill Evans Trioのいわずとしれた名盤『Waltz For Debby』の淡い人影をちあきなおみに差し替えた『あまぐも』なんてのもやりすぎていたし、Elvisの『On Stage February,1970』をまるまる使った『西城秀樹リサイタル 愛・絶叫!』も中古盤屋で見かける度に似ているなとは思っていたが並べてみると圧巻だ。爆笑するほかない。

CD時代に入り表現の制約が増えたとは言え、多くの人々の目に触れる機会も多いレコード(CD)ジャケット。再生産がくり返されるほどに成熟した芸術なのだとつくづく感じた。ネットを通じたダウンロードが主流となりそうな気配の昨今、レコジャケ達の断末魔とならないことを祈る。

書籍篇スタート

markbook2006-02-02

本日より「しゃべってもいいんだ話 〜書籍篇〜」をスタートさせることにあいなりました。〜レコード篇〜 とも連動させて、主には古今東西の音楽書籍を扱っていきたいと思います。

「音楽とは聴くものであり、読むものではない!」とはしばしば申しますが、音楽愛好家なるものは、音のみならずビニール盤やレコードジャケットにある種のフェティシズムを感ずるように、音楽について綴られた文章にもある種のフェティシズムを感じてしまうものなのです。関連商品に心ときめく様子などまったく商業シュギの格好のエジキになっているようで愚かしい気も多少するのですが・・・音楽書籍が日頃の音楽鑑賞を豊かにしてくれると信じています! 

また音楽以外にも社会・文化・歴史等など興味に任せて取り上げていく予定です。


<最近買ったもの 〜少しづつですがアップ予定です〜>

・映画は音楽だ![ポップ・ミュージック篇](エスクァイア マガジン ジャパン/ 2005年)
・「アメリカ音楽」の誕生 (奥田恵二 河出書房新社 / 2005年)
・日本の文化ナショナリズム (鈴木貞美 平凡社新書 / 2005年)
・日本ロック雑誌クロニクル (篠原章 太田出版 / 2005年)
細野晴臣インタビューTHE ENDLESS TALKING (細野 晴臣[著]、北中 正和[編] 平凡社ライブラリー / 2005年)
・我が良き友よ (かまやつひろし KKベストセラーズ / 1975年)
・日本春歌考 (添田知道 光文社 / 1966年)
筒美京平ヒットストーリー 1967-1998 (榊ひろと 白夜書房 /1998年)
・日本の漢字 (笹原 宏之 岩波新書 / 2006年)
・日本映画はアメリカでどう観られてきたか (北野圭介 平凡社新書 / 2005年)
・悪役レスラーは笑う―「卑劣なジャップ」グレート東郷森達也 岩波新書 / 2005年)
・学校って何だろう 教育の社会学入門(苅谷剛彦 ちくま文庫 / 2005年)
・やくざと日本人 (猪野健治 ちくま文庫 / 1999年)
・滑稽漫画館 (宮武外骨 河出文庫 / 1995年)
・幕末・明治の写真 (小沢健志 ちくま学芸文庫 / 1997年)