我が良き友よ ( かまやつひろし KKベストセラーズ / 1975年 )

markbook2006-02-08

最近入手した面白い一冊。1975年に吉田拓郎が書き贈った”我が良き友よ”の特大ヒットに合わせて出版されたタレント本なのだが、ポッと出の新人ではなくこの時点で既に相当のキャリアを持っている彼だから、すごく密度が濃い。しかし6月5日に初版が出て15日には23版ってほんとにそんなに売れたんだろうか。

スパイダース解散後、陽水・拓郎・かぐや姫という三大スターを抱えて隆盛を迎えることになるフォーク界に接近していったムッシュ。1971年のフォークジャンボリーには既にシティライツをバックにカントリーを聴かせている。スパイダース結成前にはかまやつ(釜萢)ヒロシとしてウェスタンギターを抱えていただけあってフォークにも違和感無く溶け込めたようだ。

さて、陽水、エンケン、拓郎、高田渡三上寛、泉谷、加川良らフォーク勢や、スパイダースの盟友、ユーヤさん、ショーケンにジュリー、和田アキ子に音楽的親交のあったガロなどロック勢らとの軽妙に綴られるエピソードは、殆どの面々が現役なだけに内容が古びず本当に興味深い。ムッシュはセンスで勝負している人だとつくづく思う。人間観察も鋭い。時代の半歩先を行っている人に接近して友達になれちゃうのはまさに才能だと思うし、それでいて誰にも憎まれないのはなんとも得なキャラクターだ。

面白かったエッセイでは「お見合いはエッチだと思わないかい?」。喫茶店でお見合い現場にたまたま遭遇したムッシュが会話のやりとりをいちいちヒワイな方向へ深読みするという妄想エッセイなのだが、何も悟られないようにじっとしながら誰にもメイワクをかけずにひたすら考え事をしているムッシュに無条件に好感を持ってしまった。あと「やっぱり歌はへたより上手のほうがいい」では自分の歌がうまいと思ったことがないと言い切った上で、聴いてくれる人はなんとなくホノボノしてくれればいいなんてことを言っている。実に”客観的に見れて”いる人だなあと感心してしまう。(ワタシはムッシュの歌、好きですが。)

また、身近にいるおしゃれな人のファッションを愛情持って紹介するコーナーも。彼は昨年急逝した高田渡が好きなようで、本にもところどころ登場するのだが、彼のファッションをこう評している。

「目立たないけどおしゃれな人だ。ナメシ皮の上着に、ノリのついてないシャツを着て、太いコールテンのズボン、靴はスウェードモカシをはいて、パイプをくわえている−パリの裏街の絵描きさんのような服装がイカシてるんだ。」

いい感じです。

さらに最後にはグルメ論。行きつけの店でおいしかった店を料理別に紹介して電話番号まで載せてしまっている辺りなんとも凝っている。

2年ほど前だったか、中川イサトの名盤『お茶の時間』のジャケットにもなっている喫茶店ムッシュを目撃したことがある。あまりの衝撃に「ムッシュですよね?」と問いただしてしまったが、見間違えようもなく、ムッシュ以外の何者でもなかっただろう。

2002年の『Je m'appelle MONSEIUR〜我が名はムッシュ』とセルフカバーの『Classics』に合わせて出版された自伝『ムッシュ!』(日経BP社)も戦後ポピュラーミュージックの歩みをムッシュを通じて体感できる稀有な一冊。ここでも語り口が冴えている。